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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

会ふ(2016年)

30篇選出(選外佳作というところか)。

英子氏が亡くなられたことと、英子氏のこの一首の暖かさが好きだったので、供養の気持ちを籠めて詠んだアクロスティックだが、落ち着いて考えてみると、アクロスティックにする必然性がない。

作者的には、いくら工夫したつもりでも、毎年、「構成に工夫がたりない」と批評されることに困ってしまって、アクロスティックに逃げたような自覚がないと言ったら嘘になるので、そこが改善されないかぎり、佳作にもなれないと、深く反省。

年齢も重ねたし、応募はこれでおしまいにして、夏をもっとリラックスして暮らそうと思う。

長年にわたる、楽しい経験であった。



 会ふ                   

「会ふといふ愛しきものを・・・・・ (宮英子)」の、アクロスチック


会 会釈してふたこと、みこと交はしたり病棟五階の給湯室で

ふ ふんゐきに華ある方(かた)と覚えたり給湯室に居合はせたるは

と ともにゐし母の言ひたり「宮柊二のおくさまですよ、今のあの方」

い いつか我がカナダで歌を詠む時が来るとは思ひみざる展開

ふ ふるさとの言葉を失ふまいとして紡ぐ三十一音の短歌(うた) 
  
愛 愛しさに抱(いだ)きあげたき未熟児の泣けば一緒に手足も動く
                
し しつかりと眼(まなこ)を閉ぢてあくびするガラス戸越しに見るみどり児は

き きのふよりも少しあかんぼらしくなる二キロに足りぬ男孫アンディー

も もうすぐに四歳となるこの孫を抱(いだ)きたる日を腕が記憶す

の のびのびと明るく育てと祈りしが叶ひてこの児、まあ、よくしやべる

を をりをりにスカイプ電話かけくるるアメリカに住む息子一家は

草 草むらに薊のつぼみ色づきぬ 陽に透きとほる棘に護られ

に にんげんの力およばぬ渇水の夏も薊は勁く咲きたり 
 
あ あおぞらにあこがれるがに上を向き赤紫のあざみ咲き継ぐ

ふ ふうはりと薊の絮がとびたちぬ揺れてしばしのためらひの後

書 書きて佳(よ)き歌と唱じてよき歌と経路を違(たが)へ心に届く
   
に にほんごを習ひはじめし十歳が「佐藤」の「藤」を書くにてこずる

会 会ふチャンスなかりし祖母の色紙の字どこか私の仮名と似通ふ

ふ ふつくらとおほらかな字によく似合ふ4Bの描(か)く太めの線は

ま まる文字を見かけなくなるわがめぐり 字体も世代交代をして
 
し しつとりと部屋の空気のやはらぎぬ独りの夜に墨を擦るとき  

て てんでんに横を向いたり曲がつたり思ひのままにはならぬわが文字
    
人 人と会ひ人と別れる一生にきらりと光る〈瞬間〉あまた

に にじふたへ東の空にかかりたり ベーカー山をひと跨ぎして
   
し しみじみとわが来し方に向き合へり虹の消えたる空を見上げて

あ あひたいの〈会〉が〈逢〉へと変はる時心にぽつと点る灯のあり 
 
ふ ふたたびのチャンス恃めぬ齢となり会へる人には会へる時会ふ

は はなやかな噂のいつもありし人 七十すぎて孫の話しす

英 英語なら気軽に言へるI love you 日本語なれば言ひそびれたり

子 子や孫の話をあまた持ち行かむ父母のゐるかもしれぬ彼岸へ



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